2017年9月26日火曜日

『隷属なき道』ルトガー・ブレグマン

 文藝春秋。副題「AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働」。Rutger Bregman。野中香方子 訳。
 ベーシックインカムとは、例えば、全国民に区別なく1年間に150万円配りましょうというような感じで、生活保障をすることだ。その代わり生活保護も各種学費援助もすべて廃止するという。何だか今の日本では、というか世界のどこででも、そんな制度の導入はあまりにも非現実的なものに見えてしまう。でも実はこのようなベーシックインカムを小規模に導入した例は世界各地に見られ、それは成功しているのだという。つまり、貧者にお金を与えたってギャンブルやお酒に使うだけで余計働こうとしなくなるだけだという反対意見を覆し、実際には各人が生活に必要なものを手に入れたり、働き口を見つけるための行動に結びついたりしたのだという。生活保護制度を維持するためには公務員の人件費がかかっていたり、貧者による犯罪等に対処するための対策費用がかかるなど、多くのお金が使われている。それが、ベーシックインカムを導入することでそれらの費用が激減し、総体で見るとプラスになるとの結果も出ているという。そして驚くべきことに、1960年代のアメリカではベーシックインカムの導入は右派からも左派からも一定の支持を得ており、かのニクソン大統領はそれを議会にかけるところまでいったのだという(結果的には議会は通らなかったのだが)。
 このように著者の話を聞いていると、ベーシックインカムの導入は見果てぬ夢物語でもユートピアでもないような気がしてくる。そのためにはまず、このような概念を世間のより多くの人に知ってもらうことが必要だろう。そうすればもっと現実味をおびてくる。
 「一日三時間労働」というのは、1930年にケインズが行った講演の中の「2030年には人々の労働時間は週15時間になる」との予測を踏まえたものだ。著者は結局は「AIには勝てない」としており、AIとの共存のためには、時間と富の再分配、労働時間短縮とベーシックインカムが必要だと訴えている。また、全世界のわずか62人が35億人の総資産より多くの富を所有しているのは国境の存在にあるとして、国境の撤廃も主張している。
 これらの主張はどれも実現不可能なことのように感じるかもしれないが、著者が言うように、奴隷制度の廃止や女性参政権、同性婚も、始めそれを訴える人は狂人と見られていたという事実を忘れるわけにはいかない。

0 件のコメント:

コメントを投稿