2017年10月14日土曜日

『枕草子のたくらみ』山本 淳子

 朝日新聞出版。副題『「春はあけぼの」に秘められた思い』。
 『枕草子』の作者、清少納言は、一条天皇の中宮である定子に仕えた。そしてその頃の貴族らの機知に富んだ雅で華やかな世界を『枕草子』の中に描き出した。では何のために?
 清少納言というと、「春って曙よ!」 で始まる橋本治による『桃尻語訳枕草子』のイメージのせいか、どうしても、頭はいいけどミーハーで、ちょっといっちゃってる現代娘という印象が強い。そして『枕草子』に書かれているそのままに優雅な時代を生きたのだと。ところが実際には、定子はこの平安の世の中で必ずしも幸せとはいえず、権謀術数の渦巻く政治の世界に翻弄され、数奇な人生を送ったのだという。一条天皇に愛され、その間に男子をもうけながらも、失意のうちに24歳という若さでなくなってしまう。そのような中にあっても、『枕草子』の中には暗い話が出てくることはほとんどなく、あくまで雅で気の利いた言葉で定子の住む世界が語られるばかりだ。政治的にデリケートな話も絶妙に避けられている。
 ここに清少納言の思いがあった。 本書ではこれを「たくらみ」と称している。『枕草子』は、ただ定子のために捧げられたものなのだという。生前は定子の心を癒やし、没後は定子の魂を慰める、ただそのままに。
 とてもおもしろい本である。『枕草子』の原文と訳を豊富に掲載し、『紫式部日記』、『栄華物語』、『小右記』などの記述も多数引用することで、この時代背景を詳しく追いながら、定子と清少納言の関係にスポットライトを当てて『枕草子』を解読していく。この本を読むまで、『枕草子』の裏にこんなにも複雑で重々しいドラマが隠されていたとは思いもしなかった。清少納言に対するイメージを大きく変えた一冊である。

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