1967年の録音。Ann Burton with the Louis van Dyke Trio。オランダのジャズ・ヴォーカリストであるアン・バートンと、ルイ・ヴァン・ダイク・トリオ(Louis van Dyke (p)、Jacques Schols (b)、John Engels (d))、プラスアルトサックス(Piet Noordijk)。アン・バートンの公式デビュー・アルバム。
ゆったりとした調子の曲をしっとりと感情豊かに歌い上げる。なのにうまい具合に力が抜けていて、ピアノやベースなどバックとの絡みも絶妙で、いい雰囲気のアルバムに仕上げっている。きれいな声というのではなくてちょっと引っかかりのある感じではあるんだけど、そんな声がまた味があっていい。
3月末に残念ながら閉店してしまった札幌駅近くの「ロスマリン」という喫茶店にぴったりのアルバムだなと思って、懐かしくなってしまった。
2016年6月29日水曜日
『Blue Burton』Ann Burton
2016年6月18日土曜日
『ボリビア・アグロ・タケシ・ティピカ(2016)』横井珈琲
『「表現の自由」入門』ナイジェル・ウォーバートン
岩波書店。森村進、森村たまき 訳。
本書における表現の自由とは、言論だけにとどまらず、演劇、映画、ビデオ、写真、マンガ、絵画等、広い範囲を指している。
他人に危害を及ぼさない範囲で、人は何でもする自由がある、とJ.S.ミルは言った。もちろんそれは表現の自由を含めてのことだが、本当のことだろうか。ヘイトスピーチ、ポルノグラフィ、ホロコーストの否定、神への冒涜、インターネット、著作権等々、自由と倫理・道徳の間で微妙な線引きを迫られることが多々ある。それらの線引きは歴史的にどのようになされてきたのか。そしてどうすべきなのか。これらを具体例を示しながら、様々な人の主張がどうなされ、著者はどう考えるかについて述べられる。抽象的な議論ではなく実例を元にした議論なのでわかりやすい。もちろん表現の自由はどんなものよりも上位にある概念ではない。ではどこまで制限が加えることが適切なのか。これらについて深く考えさせられる本だ。
2016年6月15日水曜日
『絵本をつくりたい人へ』土井 章史
玄光社MOOK。
これまで漠然と絵本づくりに憧れを抱いていたけれど、実際にどうやってつくればいいのか勉強したことがなかった。 そんなときに店頭でこの本を見かけ、おもしろそうだったので読んでみた。
まず、いろいろな絵本が例としてあげられていて純粋に楽しい。「絵本ってなんだろう?」から始まって、本の大きさや製本の話など基本的な事柄が載っていて、そのあと実際の絵本づくりについて絵本の内容やラフや本描きの仕方などが書かれている。荒井良二、酒井駒子、島田ゆかなどといった絵本作家へのインタビューもおもしろい。出版社への持ち込みや公募展への応募についても書かれていて、実践的だ。
全体を通して感じたのは、絵本をつくるのはこんなに大変なんだ、片手間でつくるなんてなめた態度じゃダメなんだ、ということだった。でもこの本を読んでいるとわくわくしてくる。絵本づくりに正しい方法論なんてない、と著者は書いているけれど、この本は間違いなく絵本づくりへの第一歩を踏み出させてくれる。
2016年6月12日日曜日
『完全独習 ベイズ統計学入門』小島 寛之
ダイヤモンド社。
先端ビジネスや医療にも使われているベイズ統計学。ただ、ちょっと取っつきにくい。そこをできるだけわかりやすく、ややこしい数式をほとんど使わず、面積図の四則計算を主に使うことで解説している。この面積図というアイデアはよく考えられていて、条件付き確率などを直観的に理解するのにとても役に立つ。ベイズの公式を見るだけではよくわからなかった根っこの部分が、これを使うことで入門者にも理解できるようになっている。「超入門」だと筆者が述べているだけのことはある。
この本のいいところは、ベイズの公式の理解だけでとどまっていないところだ。迷惑メールが自動的に振り分けられる仕組みがわかりやすく載っていたり、ベータ分布や正規分布についても基礎の部分が触れられていたりする。ベイズ統計学について、表面的なものじゃなくて、根本的な理解ができるようになる。章ごとの練習問題も、飛躍していなくて、入門者でも十分についていける。そして、もっと本格的にベイズ統計学に取り組もうと思ったら、巻末にある参考書にあたればいい。
これまでベイズ統計学についてある程度学んだ人にとっては物足りないかもしれないが、最初に手にする参考書としてはとてもよくできていると思う。
2016年6月9日木曜日
『グァテマラ・エル・ソコロ(2016)』横井珈琲
『断片的なものの社会学』
朝日出版社。
著者は社会学者で、市井の人々(それはマイノリティといわれる人が多かったりするのだが)にインタビューをするなどのフィールドワークを行っている。そんなインタビューの中でも、どうしても分析も解釈もできずに取り残されたもの、どうしてもストーリーにまとめ上げることができなかったもの、つまりは著者の手からこぼれ落ちてしまった断片のいくつかを集めたのがこの本である。
場末のミュージシャン、ヤクザ、ホステス、ホームレス・・・。そんな人たちとの出会いの中で見えてきたもの、あらわれてきたものについて、著者の個人的な経験も絡めながら訥々と語られている。社会学と銘打っているけれど、学究的というよりはエッセーに近い。
ふだん自分の関わることのほとんどないそういった人々の話は、なんだかドラマやドキュメンタリーの中にしか出てこないような感じで、同じ世界の話だという実感がわかない。なんだか宙に浮いた感じのとらえどころのない浮遊感が漂う。そんなとらえどころのない、答えもあるんだかないんだかわからない物語を読みながらも、いかに今の自分が狭い世界で生きているのか、そして自分とは違う世界を生きる人を理解するというのはどういうことか考えさせられる。いや、もしかすると自分と違う世界の人だけじゃなくて、同じ世界だと思っている人たちのことを理解するということも、同じくらい難しいことではないのか。自分の外部に半ば強引に引きずり出されて、そんなことを考えた。たぶん答えはないのだろうけれど。
2016年6月5日日曜日
2016年6月4日土曜日
『考えることの科学』市川 伸一
中公新書。副題『推論の認知心理学への招待』。
「考える」ということはいろいろな側面があると思うけれど、この本ではそのうちの「推論」ということに照準を合わせて、認知心理学の立場から論じている。論理的推論、帰納的推論、確率・統計における推論。何だかこうやって並べてみるといやに難しく感じてしまうけれど、実際にはとてもわかりやすく書かれている。この本で紹介しているいろいろな事例は、他の類書でもよく出てくるものではあるが、ここまで本質的でしかもわかりやすい説明がなされているのはあまり例がない。ウェイソンの4枚カード問題やベイズの定理などは、この本を読んで初めて腑に落ちた気がする。
著者はこんな風に述べている。人間はだいたいにおいて妥当でうまくやっていけるような推論の仕方をしているけれど、ときに大きな考え違いをしてしまうこともある(これがいわゆるバイアスとか言われるものだ)。別にそれが悪いと言っているのではなく、そういう考え違いのしやすさのクセを知っていると、もっと洗練された思考をすることができるようになるのではないか。本書で書かれていることいろいろな知見は、そういう前向きの視点で捉えるべきではないか。
そのとおりだと思う。人間は日々いろんなことを考えて生きている。そんな当たり前のように存在している「考えること」について、ちょっと意識的に目を向けてみると、そこにはまた新たな世界が広がっていることだろう。
2016年6月1日水曜日
『Typography 09』
グラフィック社。タイポグラフィ09。
今回の特集は「美しい本と組版」。美しい本ってなんなんだろう。ふだん本を読んでいて、あ、この本は読みづらいな、と思うことはたまにあるけれど、この本は美しい、なんて思いながら本を読むことはないかもしれない。そんなことを考えていたら、本の内容は頭に入ってこないような気がする。もしかすると、文字組に気を取られないで読める本というものが美しい本なのかもしれないな、と思ったりもする。でもきっとそれは、私が文字の素人だからなのだろう。文字を専門に扱っているプロの人たちは、組版の美しさを感じ取れる感性を持っているのだろう。その感性を持ち合わせていない自分に対してほんのちょっぴり悲しい気持ちを抱きつつ、この「美しい本」を読んだ。そして、少しだけその美しさを感じることができるようになったんじゃないか、と得意げな気持ちになって、この雑誌を読み終えた。こどもみたいだな、と苦笑いしながら。