2019年3月21日木曜日

『「正義」がゆがめられる時代』片田 珠美

 NHK出版新書。
 2016年に相模原市の障害者施設「津久井やまゆり学園」で起きた大規模殺人事件の背景を主軸にして、現代において「正義」がどのようにゆがんでしまったのかを論じた本。
 弱者攻撃、平等が崩れた時代背景、コスパ主義の蔓延、強い被害者意識と懲罰欲求などにより、生活保護バッシングや芸能人の不倫攻撃、店員や駅員への暴言、暴力などが生まれてきた経緯を考察している。
 数多くのデータを引用した筆者なりの主張は、基本的にはそう大きく的を外したものではないように思う。しかし、そのデータの扱いや論理展開は非常に雑であり、飛躍も多い。筆者の思いと統計的事実がごちゃ混ぜになって、だらだらと並べられているだけの印象があり、筋が見えてこない。事実と筆者の思いをうまくつなげる文章構成になっていないのは実にもったいない。もうちょっと再構成し直したら、もっと説得力が増しただろうに。また、本書のタイトルには違和感を覚える。この本は正義を真っ向から論じたものではなく、「正義」という言葉は主題ではなく、筆者の主張を補佐するキーワードのひとつにすぎない。評論というよりは、 エッセイとして読むのがいいかと思う。

2019年3月17日日曜日

『HOCHONO HOUSE』細野晴臣

 2019年。
 細野が1973年に出したファーストアルバム『HOSONO HOUSE』の完全リメイク盤(ただし曲順はまったく逆になっている)。ファーストは狭山の一軒家に機材を持ち込み、いわゆる宅録形式で作られたアルバムだけれど、本作は多くが打ち込みによっている。
 でも不思議なことに本作を初めて聴いたときも、まったく違和感がなかった。彼の木訥としたやさしい声が、ジャンルとしてはよくわからないサウンドの上に載っている、というのはいつものことだと思ったから。
 ただ、今回せっかくだからと『HOSONO HOUSE』と聴き比べてみると、全然違う。最初のものはやっぱり時代のせいかフォーキー(C&W ?)な感じが強くでている。もちろん生演奏であるわけだし。だから本作は今風といえば今風。前は声も若かったし、音圧もそんなに高くはなかった。それに歌詞も今の細野の気持ちに合わせて変えた曲もある。ファーストではイントロで終わっていた「相合傘」に今回は歌詞が入っていたりもする。お気に入りの曲だった「終りの季節」がインストに代わっていたのはちょっと残念だったけれど。
 今回のアルバムは打ち込みを多用しているとはいえ、生演奏もわりと聴くことができる。「パーティー」は1975年のライブレコーディングでのピアノ弾き語りだし、「ろっかばいまいべいびい」はアレンジこそ違うけれど、同じギター弾き語りだ。ライナーノーツによると、この「ろっかばいまいべいびい」を最後に持ってきたいがために、全部の曲順が逆になったのだという。
 細野ワールドの底流に流れているものはそんなには大きく変わらないのかもしれないけれど、積み重ねられた経験値はとてつもなく大きなものなんだろうと思う。その重層感を味わえるのがこのアルバムなのだろう。ファーストアルバムももちろんよかったけれど、このアルバムはそれを超えてしまったのかもしれない。

2019年3月14日木曜日

『猫はためらわずにノンという』ステファン・ガルニエ

 ダイヤモンド社。吉田裕美 訳。
 猫はいつでも好きなことをしていて、自由で気ままだ。かまってほしいときは寄ってくるくせに、そうでないときはこちらがちょっかいを出すのが迷惑そう。
 そんな猫の生き方をちょっと真似て、私たちももっと気楽に生きてみてはどう?というのがこの本が言わんとしていることだ。
 人間はいろいろなしがらみの中で人生を送っており、変な気遣いばかりしているけれど、本当にそれは必要なことなんだろうか。もっと自分に自信を持って、自分を大切にして正直に生きてみては?と問いかける。でもここで間違ってはいけない。猫はまわりを何も気にしないで自分勝手に生きているように見えるけれど、決してそういうわけではないのだという。だってそんな猫たちと一緒に暮らしている人たちは、猫と一緒にいることで実に幸せそうでしょう?猫が私たちのことを受け入れてくれているからじゃない?
 かわいいイラストとともに、私たちに猫のような生き方を提案し、ほっこりとした気分にさせてくれる軽い読み物。

2019年3月11日月曜日

『アダム・スミス 競争と共感、そして自由な社会へ』高 哲男

 講談社選書メチエ。
 アダム・スミスといえば、近現代の経済学のさきがけとも言われる1776年の『国富論』が有名であるけれど、それに先立つ1756年には倫理学についての『道徳感情論』という本を書いている。高哲男による本書はこれら2冊のアダム・スミスの主著を底本とし、彼の思想を読み解いていく。入門者向けの本とはいえ、なるべく原著からの引用を多くして、アダム・スミスに対する誤解を解き、彼の真の姿を紹介しようとの気概が伺える。
 当初アダム・スミスの名前を目にしたとき、ああ、あの自由放任主義の神の「見えざる手」の人ね、なんて思って本書を手にしたわけだけれど、それは大いなる誤解だということをこの本を実際に読んでみて知ることができた。確かに彼は自由経済を説いて、各個人が自由にお金儲け(と言ってはちょっと語弊があるかもしれないけれど)をしたとすれば、貧者も富者も合わせてみんなが幸せになるんだみたいなことは言っている。でも彼が説いたのは「自由放任」ではなかったし、貧者と富者の格差も容認していなかった。そもそも「見えざる手」という言葉が出てきたのは1か所だけだったということであるし。
 たぶんアダム・スミスの思想を理解するには、『国富論』の斜め読みだけではだめで、『道徳感情論』における「共感」と言う概念も交えて考えないと、真の姿を追うことはできないのだということなのだ。「共感」というのはもちろん他者に対する「共感」を指すわけで、これなしに他者理解は成立しないのだという。他人を思い、その制約の中で自由経済を実践したならば、格差が生じることなくみんなが幸せになる。ちょっとまとめすぎなのかもしれないけれど、簡単に言えばそういうことなんだと思う。
 そして強く感じたのは、アダム・スミスの考え方はとても素朴で(当時は画期的だったのかもしれないけれど)、現代に生きる我々が腑に落ちる部分もかなりあるということだった。もちろん彼の考え方をそのまま実践してうまく世の中の経済が回るほど、現代社会は単純ではないし(18世紀でも同じだろう)、実践すら困難な状態なのかもしれない。しかし我々は、現代の経済学を学びつつ、アダム・スミスの考えた経済についてもひと通り目を通しておいても、決して無駄な営みとはならないだろうと思う。

2019年3月7日木曜日

『帰り路~お母さんとデート』詩月あき

 B5版(257×182mm)。
 初めて水彩色鉛筆で水を使って描きました。もったいないことに、今まで色鉛筆としてしか使ったことがなかったのです。色鉛筆で描いた後に水を含ませた筆でなぞるとどんな色に変わって、タッチがどのように変わるのか、初めてわかりました。水で掃いた後に色鉛筆を乗せてみたり、色鉛筆自体を水につけて描いてみたりと、いろいろ試しながら描いたので、ちょっと行き当たりばったりの作品になってます。
 色鉛筆っぽさと水彩っぽさの両方を出したくて苦労しました。絵本向けの絵柄なのかな、と勝手に思っています。今後は行き当たりばったりではなく、狙ってこんな絵を描けそうです。モデルはインスタ友達(?)のお子さんで、喜んでもらえてうれしかったです。

『瞬間的シックスセンス』あいみょん

 2018年。シンガーソングライター、あいみょんのセカンド・フルアルバム。
 まだセカンドなんだ、という感じがする。もうずっと前から聴いてるような気がしてたから。「マリーゴールド」がまだ売れ続けているみたいなので、それを目当てに買う人もいるのかもしれない。この曲はやっぱりいいな、と思う。私はテレビを観ないのでどれがタイアップかどうかなんて全然わからないのだけれど、たぶんたくさんタイアップ曲が含まれているんだと思う。
 「マリーゴールド」以外も好きな曲が多い。「プレゼント」、「ひかりもの」、「今夜このまま」、「あした世界が終わるとしても」などなど。正直をいえば、苦手な曲は1、2曲だけ。メロディと声がとても好きなんですね。あいみょんといえば、「死ね」とかみたいに過激な表現が斬新で魅力的だなんても言われてるわけだけど、私は歌を聴いても歌詞があんまり頭に入ってこないクチなので、それ以外の部分に心惹かれるわけです。
 だからこのアルバムは初期の頃の毒が抜けてヒットを狙ってるみたいで好きじゃないとかいう人もいるけれど、私はそこのところはどうでもいいので、このアルバムはとても好きです。ファーストに比べるとアルバム全体のバランスや音づくりも一段上を行っていると思うし。強烈な毒気が好きだった人には物足りないのかもしれないけれど、いいと思う。前作『青春のエキサイトメント』に入っていた「君はロックを聴かない」の路線を承継したようなアルバムじゃないだろうか。

2019年3月5日火曜日

『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』援川聡

 ダイヤモンド社。副題「100業種・5000件を解決したプロが明かす23の技術」。
 長年クレーム対応にあたってきた著者が送る、クレームを完全に撃退するためのマニュアル。主に3つの部分からなっていて、「クレームを長引かせないための鉄則」、「理不尽な要求を断ち切る実践的な会話術」、「クレームの最終局面における対処法」を、実例を挙げながら解説している。
 クレームも、初めはただの苦情なのか悪質なものなのかがよくわからない。だから、時系列に沿って、苦情を受けてすぐの対応、それでも相手が引かないときの対応、明らかなモンスタークレーマーだとわかったときの対応に分けて説明している。使ってはいけない言葉、態度、対応。逆に使うべき言葉、態度、対応。
 ひとりでできることもあるけれど、数人あるいは組織全体、さらには組織を超えた連携が必要なこともあるんだということがわかった。今まで、お客様を相手にしているんだからここまでやってはだめなんじゃないだろうか、どこまでの要求であれば応えてもいいんだろうかと悩んでいた部分に対し、明快に解答を与えてくれている。解説にあやふやな部分がなく、この場合はこう、この場合はこうと、はっきりと対応方法を示してくれているところがとてもいい。その場でなるべく早くカタをつけたいクレーマーの手のひらに乗らず、いかに落ち着いて行動できるか。そのための処方箋として、そばに置いておくと心強い一冊だと思う。