2018年8月18日土曜日

『Turn Up The Quiet』Diana Krall

 2017年。ダイアナ・クラール。
 往年のジャズスタンダードを手がけた作品。ダイアナはヴォーカルとピアノ。トミー・リピューマ(Tommy LiPuma)最後のプロデュース作品だという。
 このアルバムについては発売前から買うかどうかずっと悩んでいたのだけれど、札幌にある『カフェ+ギャラリー・オマージュ』というレストランで食事中ずっと流れていて、それがなかなかよかったのでやっと購入に踏み切った。
 最初から、「Like Someone In Love」「Isn't It Romantic」「L-O-V-E」と、安定した演奏と歌唱でどんどん続けていく。ジャズヴォーカル作品としてはある意味王道的なアプローチなのだと思う。安心して聴けるというか、これはこれで完成してしまっているというか。ただ逆に、そのせいでちょっと物足りなさを感じさせてしまっているところがあるようには感じる。演奏や歌、そして曲についてはまったく言うことはないのだけれど、もうひとつ何かが加わってもいいんじゃないかという。完成しちゃっているから加えるものは思いつかないし、贅沢な要求なのかもしれないけれど。

2018年8月15日水曜日

『もうひとつの空―日記と素描』有元 利夫

 新潮社。
 有元利夫は戦後まもなく生まれた日本の画家である。ロマネスク風のフレスコ画のような絵や版画を残し、38歳という若さでこの世を去った。本書はその有元による晩年10年弱の日記や、美術誌などに取り上げられた文章、そして彼の描いた素描などを掲載している。
 素描はすごくうまいというものではないのだけれど、彼が完成させた絵画と同じように、素朴で不思議な雰囲気を漂わせている。文章はとてもしっかりとしていて、芸術に対する真摯な態度が伝わってくる。苦しみながらも自分の描くべき絵のあり方を模索していっている様子がうかがえる。バロック音楽を愛し自らリコーダーも奏でていた彼が、絵の他に大事にしていた音楽と向き合う姿も垣間見ることができる。
 芸術家とは、画家とはこういう人のことをいうのだな、と強く思った。そういえば、「ゴッホの手紙」という本を読んだときも同じような感覚を覚えた。そして逆に私自身を振り返ってみると、絶対に芸術家ではないと断言できる。絵そのものに対する向き合い方がまるで違う。この本を読んでいるときにそのことに気づき、大きなショックを受けることになったが、本物の芸術家の言葉にこうして耳を傾ける時間がとれたことは大きな幸運でもあったのだなと思う。今度彼の展覧会が催される機会にうまく巡り会えたら、必ず足を運ぼうと思っている。

2018年8月14日火曜日

『暴政』ティモシー・スナイダー

 慶應義塾大学出版会。池田年穂 訳。副題「20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン」。
 ヨーロッパでは、イギリスの君主制からの独立宣言(1776)後、3回の大きな民主的な局面を迎えたものの、そのときに建設された多くの民主制は破綻への道を歩んでしまったと著者は指摘する。その3度の局面とは第一次世界大戦後(1918)、第二次世界大戦後(1945)、共産主義終焉後(1989)のことである。著者は歴史は繰り返さないとするものの、歴史から学ぶことはできるとし、本書の中で20のレッスンを行っている。
 その一番初めのレッスンが「忖度による服従はするな」というタイトルなのは、もちろん日本のことを念頭に置いたものではない。しかしこれを単なる偶然と笑って済ませられるほど、軽い話ではない。ナチスドイツが政権を取って全体主義に向かっていったとき、おおむね民主主義に則った形でことは進んだ。その一端を担っていたのは、ごくふつうの国民だったのだという。
 本書で書かれているレッスンのひとつひとつは、それだけで暴政につながることはないかもしれない。しかしそれらが組み合わさったとき、暴政は始まる。「組織や制度を守れ」「自分の言葉を大切にしよう」「自分で調べよ」「危険な言葉には耳をそばだてよ」。どれも当たり前のことに感じるかもしれない。でもその当たり前のことが当たり前でなくなっているからこそ、著者はこうして警鐘を鳴らす。本書はアメリカ国民に向けて書かれたもので、暴政という言葉を明らかに現大統領による政治手法と結びつけている。そしてロシアやトルコの指導者とも。
 おそろしいのは、これらのレッスンが今の日本人にとっても他人事とは言えない内容になっている点だ。歴史に流されてはいけない。歴史に学ばなくてはならないのだ。

2018年8月11日土曜日

『漁の合間(仮題)』

 「北の海」厚田アクアレール第4回水彩画展(ホームページ)で入選しました。もう展示は終わってしまいましたが、北海道石狩市の厚田総合センターで、7月下旬から8月上旬にかけて展示されていました(ただし出品者名も作品名も違うので、検索しても出てきません)。
 「北の海」がテーマなのですが、海に面していない町に住む私は簡単にはスケッチ旅行に出かけられず、アルバムに保管してあった何十年も昔のすすけた写真をベースにしました。山の形も船や家の形や数も、海の色さえも写真とは違うのですが、私が見た漁港の雰囲気はこんなんだったよな、と想像に任せて描きました。
 大部門で応募したのですが、この大きさの絵を透明水彩で描くのは大変でした。アクリルとか油彩の方が大きな絵は描きやすいです。

2018年8月8日水曜日

『精読 アレント『全体主義の起源』』牧野 雅彦

 講談社選書メチエ。
 ハンナ・アレントの『全体主義の起源』は、1951年に初版が出された全3部から成る大書である。第1部から順番に、「反ユダヤ主義」「帝国主義」「全体主義」という構成になっている。本当は2017年に出された新版の『全体主義の起原1~3』(「きげん」の漢字が異なる)3冊を読みたかったのだけれど、あまりの値段の高さに手が出ず、まずは本書を読んでみることにした(『全体主義の起原1~3』は新版と言いつつ訳は古いままだとamazonのレビューには書いてある)。
 アレントによるドイツ語版及び英語版からの引用をしつつ、牧野によって解説が加えられている。内容的にはかなり込み入っていて難しい。彼女が一番考えたかったのは全体主義についてであることは明らかなのだけれど、彼女の言う「全体主義」と、我々が義務教育等で習ってきた「全体主義」のニュアンスがかなり異なっているように感じた。全体主義はファシズムでもなければ共産主義でもなく、さらに言えば反ユダヤ主義とも帝国主義とも違う。本書で全体主義国家としているのはヒトラーのナチス・ドイツであり、スターリンのソビエト・ロシアであって 、ムッソリーニのイタリアではない。法律はあるのにそれとは別の超法規的な存在があり、全体主義には階層も権威もなく、ただ大衆(マス)の存在がある。プロパガンダに導かれる運動こそがその根本にあり、それは「体制」ですらない。全体主義を覆う構造は何層にもわたって巧妙に仕組まれたガラス細工のようなものなのではないか、とそんなことは本書では書かれてはいないのだけれど、そんな印象を持つ。
 私は彼女の思考をうまく言葉に訳せないのだけれど、彼女にとってもそれはまだ体系的に理論立てできずにいたままだったのではないか。それがこの『全体主義の起源』という本の難しさにもつながっているように思う。牧野による本書を読むと、なんとなくはその全体像がおぼろげながらもつかめた気にはなるのだけれど、それを一言で要約できるほど私は理解し切れていない。
 ただ、全体主義の恐ろしさは、とてつもなく強く感じた。ヒトラーやスターリンが、人類の歴史のほんの一部の期間だけとはいえ、それを成し遂げてしまったということに驚きを感じる。ある意味において2人は天才(「悪の」とつけてもいいかもしれない)だったのだろう。数多くの偶然も重なって全体主義国家は成立してしまったのだろうが、その「種(たね)」は、現代においてもいくらでもその辺に転がっている。また不幸な偶然が重ならないようにするための知恵は、まず「全体主義」とは何かについて知ることから始まるのだと思う。

2018年8月5日日曜日

『おいしいうた』福原希己江

 2011年。
 私は知らなかったし観てもいなかったのだけれど、『深夜食堂』というドラマや映画があったのですね。そこで音楽を担当していたのがこの福原希己江というシンガーソングライターなのだという。このアルバムは、そのうちのTBSドラマ『深夜食堂2』で使われた曲が入っている、彼女にとってのファーストアルバムだということらしい。クラシックギターの音色と彼女の声だけのシンプルな構成だ。録音場所が撮影現場と自宅の台所というのがおもしろい。「できること」とか「なかないで」とかふつうの曲もあるんだけど、「からあげ」「あさりの酒蒸し」「青椒肉絲(チンジャオロース)」「肉じゃが」「たいやき」みたいな食べ物の曲も多くて、そっちは全然ふつうの歌詞じゃないから逆に気になってしょうがない。まあ、食堂がテーマのドラマの挿入歌だからそういう曲が多くなってしまうのは必然なのだろうけれど。
 ギターの弾き語りって、聴いていてなんだかほっとする。自分が家で歌うときはどうしてもそういう組み合わせになってしまうから、親しみを感じるのかもしれない。福原はずっとギターを片手に音楽を奏でてきたみたいだけど、2017年からリュートに持ち替えたらしい。どんな音楽に進化したのだろう。ちょっと気になる。

2018年8月4日土曜日

『Portrait of MOONRAY』

 アメリカのテキサス州オースティンを主な拠点とするデュオのバンド「MOONRAY」からポートレートの作製を依頼されて描いたものです。MOONRAYのホームページのPHOTOSにもしばらくの間、アップされているようです。
 7、80年代のポップスを感じさせる、懐かしい雰囲気の聴きやすいサウンドを届けてくれます。今年中にファーストアルバムがリリースされる予定らしいので、興味のある方は是非。