2018年10月20日土曜日

『お気に入りの帽子』詩月あき

 B2判(728×515mm)。この大きさの絵を描いたのは4月に港の風景を水彩で描いて以来。主題はアクリルガッシュを使っていますが、背景だけふつうのアクリル絵の具も使っています。アクリルガッシュはマット(艶なし)な感じなのですが、最後にグロスバーニッシュという艶出し保護剤をかけたので、全体的にテカった仕上がりになっています。マットバーニッシュの方がいいのかな、と悩んだ上での選択です。あと、写真ではわかりづらいですが、背景以外はモデリングペーストを使っているので、ちょっと盛り上がっていて、ペインティングナイフの跡が残っています。そういう質感は実物を見てもらいたいなと思っているのですが、なかなか簡単には見てもらう機会はないですね。
 サバンナに住む動植物に統一したかったので、マサイキリンとサバンナモンキーの子供とアカシアをモチーフにしたのですが、デフォルメしすぎて、キリン以外はなんだかよくわからなくなってしまいました。以前は水彩スケッチばかり描いていたのですが、最近自分の絵の方向性がよくわからなくなっています。いつになったら自分のスタイルが固まるんだろう。

2018年10月18日木曜日

『月刊MdN 2018年11月号』MdN編集部

 特集は「明朝体を味わう。」。付録小冊子として、「明朝体テイスティングリスト」という書体見本帳がついている。このリストは特集と連動していて、取り上げられている27書体すべての見本帳となっている。
 とても素敵な特集。築地体や秀英体に始まり、石井中明朝体や本明朝、A1明朝、リュウミン、筑紫明朝など、27書体の成り立ち、つくられた背景、その書体の持っている雰囲気などが、小宮山博史さん、藤田重信さん、小塚昌彦さん、祖父江慎さんといった錚錚たるメンバー(彼ら以外にもすごい人たちがいっぱい)への取材を元に解説されている。この特集を読むと、明朝体の歴史がわかるといってもいいくらい、詳しく、しかもわかりやすく書かれている。私は絶対フォント感は持っていないので、それぞれの書体をきちんとは見分けられない。でもすごくおもしろい。光調という書体だけ知らなかったけど、なんとあの田中一光さんのレタリングを元にした字だった。
 惜しいのは、それぞれの書体の解説ページのタイトルや本文文字、吹き出し文字が、その解説書体ではないことだ。この特集全体のテイストを揃えるためだとはいえ、もっとバリバリと露出してほしかった。精興社書体や石井中明朝体など、雑誌に印刷するのが難しそうなのは確かにあるのだけれど。あと、似顔絵がちょっと若づくりすぎやしないかとも思ったが、それも愛嬌だろう。
 それぞれの書体について思うところはたくさんあるのだけど、また機会があれば記事にしたい。文字好きにはたまらない一冊です。

『Love Dance』Romero Lubambo

 2000年。ホメロ・ルバンボ。ブラジルのジャズ・ギタリスト。
 本作には、インスト3曲と歌もの3曲が収録されている。歌っているのは奥さんのパメラ・ドリッグス(Pamela Driggs)。伸びやかで美しい声が印象的だ。明るくにぎやかな『By the Brook』、エレクトリックな都会的な雰囲気を持ちながらも、ブラジリアンな香りも漂うバラード『Love Dance』、ブラジルの女性シンガー・ジョイスに捧げた『Re:Joyce』で参加している。実はこの『Re:Joyce』が聴きたくてこのアルバムを買っていたりする。
 ギター主体のインストは、静かなしっとり系バラードの『NOS』、スペインのヴァレンシア地方の印象を綴ったさわやかな『Valencia I』、やわらかなギターの音で渋いメロディと素敵なアドリブを披露した『The Look of Love』から成る。
 ホメロ・ルバンボのギターはちょっと荒い感じがすると今まで思っていたのだけれど、このアルバムはとても丁寧に奏でられている印象を受けた。クラシックとブラジル音楽の素養を持つジャズ・ギタリストとして、私の好きなギタリストのひとりだ。

2018年10月17日水曜日

『微燻正山小種(2015)』遊茶

 びくんせいざんしょうしゅ。中国で一番古くからある紅茶だといわれている。後にヨーロッパ等で「ラプサン・スーチョン」と呼ばれるようになり、今ではこの片仮名の呼び方の方が通りがいいと思う。松の樹皮の燻香のついた独得の香りと風味が特徴だけれど、この香りは元々は偶然ついたものだという。
 ラプサン・スーチョンを初めて飲む人は、おそらく、なんだこのお茶、と感じることが多いことかと思う。それが飲んでいるうちに、その捉えがたい魅力にとりつかれてしまうことになるのだけれど、この『微燻正山小種』は、初めての人でもすぐにおいしく感じるのではないだろうか。やわらかでほのかな燻香は、他の紅茶メーカーから出ているラプサン・スーチョンとは違って刺激が少なく、穏やかに口の中を泳ぎ鼻をくすぐる。遊茶によると、このお茶のように昔ながらの製法でつくられている正山小種は数が少ないということらしいから、きつい香りはヨーロッパの人たちの好みに合わせたものなのかもしれない。もしくは「微燻」とわざわざ銘打っていることから、このお茶は元の正山小種よりもかなり抑えめに香りをつけているだけなのかもしれないが。
 香りを楽しめるだけでなく、味も甘さが際立っていて、とてもおいしい紅茶。

遊茶』東京都渋谷区神宮前 5-8-5

2018年10月13日土曜日

『tamago』あいみょん

 2015年。
 1曲目の『貴方解剖純愛歌~死ね~』から、いきなり強烈なパンチを喰らう。この曲がデビュー作らしいのだけれど、愛をこんな形で表現してしまう「あいみょん」というシンガーソングライターの行く末が恐ろしい。私は邦楽を聴くときもあまり歌詞が耳に入ってこない方なのだが、彼女の歌はまっすぐに心臓めがけてやってくる。
 実はそんな直球勝負の素直すぎる歌詞だけだと、そんなに好きにはならなかったのかもしれない。その歌詞を乗せているメロディやアレンジ、そして彼女のちょっとがさつな自然な歌声もまた、私の心を虜にする。
 ときどき自分の音楽的趣味がわからなくなる。きっと私は雑食なのだろう。好きなときに好きなものを食べて生きていって、ただそれだけで満足なのだ。

2018年10月11日木曜日

『朝日ぎらい』橘 玲

 朝日新書。副題「よりよい世界のためのリベラル進化論」。
 本屋に行って報道関係の書籍の棚をみると、その多くが朝日新聞批判の本で埋められている。他の新聞社についての本はほとんど見られない。どうしてなんだろうと常々思っていたところ、本書を見つけ、読んでみることにした。
 結論から言うと、この本には「朝日新聞」そのものが嫌われる理由についてはきちんと書かれていない。リベラルや保守というものがどういう立場を指すものなのか、さらにこのふたつの言葉が日本ではどのように捉えられているかについての解説があり、その上で、リベラルがうさんくさいと感じられる理由、叩きやすい理由、叩かれる理由などについて考察している。おそらく「朝日新聞=リベラル」という前提の上で書かれているのだろう。そんなのは当たり前だという意見もあろうが、私にとってはそうでもない。
 リベラルや保守についての説明はとてもわかりやすい。立場の違いに加えて、どんな人がリベラルになりやすいのかなどについての解説も、(いやな気分にはなるものの)わかりやすい。なるほどこれらはアメリカの分断をよく説明している。ただ、これを日本に置き換えたときに、途端にわかりづらくなる。「日本的リベラル」は、「リベラル」とはちょっと毛色が違うようだ。例えば一応リベラルとされている日本共産党は、今はやや中道寄りに戻ったとはいえ、その前は保守的な政党だったのだという。現政権の安部首相は自分のことをリベラルだと表現したりもしている。ほら、わからなくなったでしょう。
 この辺りの本書での記述は省略するが、リベラルのうさんくささの理由のひとつは、彼らは他人に対してはリベラルを主張するくせに、自分たちはリベラルを実践していないというダブルスタンダードにあると著者は述べている。それを踏まえて、朝日新聞がリベラルを標榜するんだったら、まず自分たちの会社(新聞社)の組織、行動をリベラルにするべきだし、もっと徹底的にリベラルを主張しなさいみたいなことを言っている。簡単に言えば、本書は「日本的リベラル」批判の本である。
 本書の内容は納得できる部分も多いが、一部論理の飛躍があり、ついていけない部分もある。ただ、一般的に「リベラル」とはどういう立場のことを指すのかについては、本書から学ぶことは多かった。ちなみに著者は自分のことをリベラル、さらに言えばサイバーリバタリアンに近いと述べている。

2018年10月3日水曜日

『シネマ』村治佳織

 2018年。CINEMA。
 映画音楽だけを収めた、CDデビュー25周年の記念アルバム。彼女はこれまでも映画音楽を数多くギターで演奏してきたけれど、全曲これだけで一枚完成させたのは初めて。2曲で弟の村治奏一が参加している。
 『テーマ(「第三の男」)』、『ムーン・リバー(「ティファニーで朝食を」)』、『愛のロマンス(「禁じられた遊び」)』など有名曲も多いが、『ある午後の数え歌(「アメリ」)』や『デボラのテーマ(「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」)』など、知らない曲もあった。
 どの曲でも、円熟という名にふさわしい安定した余裕のある演奏をみせている。もともと好きな曲だった『楽しみを希う心(「ピアノ・レッスン」)』、『愛のテーマ(「ニュー・シネマ・パラダイス」)』はもちろんのこと、『人生のメリーゴーランド(「ハウルの動く城」)』、『望郷(「ふしぎな岬の物語」)』、『アズ・タイム・ゴーズ・バイ(「カサブランカ」)』、『テーマ(「シンドラーのリスト」)』、『ガブリエルのオーボエ(「ミッション」)』なんかが特によかった。ただ、アルバム全体を通してギターの音が弱音器をつけたピアノのようになんとなくくぐもった感じがして、抜けが悪いように感じた。わざとそうしているのか、それとも私の試聴環境の悪さのせいでそうなってしまっているのかはわからないのだけれど。

2018年9月30日日曜日

『ブルンディ・ムバンガ/ウォッシュト(2018)』横井珈琲

 Burundi Mpanga Washed。ブルンディのムバンガ・ウォッシングステーションのコーヒー。ブルンディの農家は小規模なものが多く、ウォッシングステーションと呼ばれる生産処理場に持ち込んで、コーヒー豆を処理しているのだという。だからこの豆も、ムバンガ地区の豆ではあろうけれど、単一農園のものではない。以前このブログではナチュラルプロセスによるものを紹介したが(記事)、この豆はフーリーウォッシュトという処理方法によるもの。
 中煎りで、あまり強い個性はない。すっきりとさわやかなのどごしで、飲みやすい。グレープフルーツっぽい感じがしないでもない。横井珈琲のホームページでは、ジャスミン、ラズベリー、パッションフルーツの風味と書いてあるけれど、私の舌ではあまりそのような印象は受けなかった。くせが少ないので、わりと万人向けかもしれない。

工房 横井珈琲

2018年9月29日土曜日

『「あなた」という商品を高く売る方法』永井 孝尚

 NHK出版新書。副題「キャリア戦略をマーケティングから考える」。
 芸能とかフリーランス向けに書かれた本かと思って手に取ったのだが、 そうではなかった。副題にあるとおり、キャリア戦略をどう考えて、自分の力を発揮していくとよいかマーケティング理論を元に解説しているのが本書である。
 みんなと同じことをやっていても「自分」の評価は上がらないということが基本としてはある。自分のできることで他人が簡単に真似できなくて、かつ会社や社会が求めるものを、どうやったら身につけることができるのかを指南している。ここには著者の経験や会社や自治体の観光広報など、具体例がたくさん出てくるので、わかりやすい。成功している人たちは結局は似たような状況を自分自身につくりだして成功しているのだろうけれど、それを紆余曲折して手当たり次第に「当たり」を探すのではなくて、戦略的に能率よくやるにはどうすればよいか。それがこの本には書かれている。
 とはいえ本書の内容は一般化されているので、それを個々の自分自身に置き換えたときどう行動すればよいかは、自分で考えなければならないのであるが。

2018年9月26日水曜日

『冬の大地の水族館』詩月あき

 オホーツク海沿いにあるとある水族館で友人が撮った写真の子供たちがとてもかわいらしかったので、イラストにさせていただきました。
 その写真に写っていた魚はここには描いていないので、この絵はどこの海かと言われると困るのですが、北の大地、具体的には富良野・美瑛辺りをイメージして描きました。富良野は北海道のへそ(緯度経度が北海道のちょうど真ん中にあるので)と言われるところで、海なんかないので、これは海ではなくて空だよ、と答えておきましょうか。

2018年9月22日土曜日

『Raising Sand』Robert Plant & Alison Krauss

 2007年。
 私はレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)の曲、そしてそのヴォーカルの声が好きだったが、実はソロになってからのロバート・プラントの歌を聴くのは、これが初めてだった。彼の時代のハイトーン・ヴォイスは影を潜めて、ごく自然体で無理なく歌っている。何も知らずにこのアルバムを聴いたら、9曲目の「Fortune Teller」まで彼の声だと気づかなかったに違いない(7曲目でセルフカヴァー「Please Read the Letter」が収録されているのにもかかわらず)。そしてアリソン・クラウス。フィドル弾きのブルーグラスの大御所らしい。高音のきれいな声がロバート・プラントのいい具合に力の抜けた声にぴったりとはまって、素敵なハーモニーを奏でている。「Stick With Me Baby」なんて特にそう。
 曲はカヴァーが多い。いかにもアメリカっぽいカントリーやフォーク、ロックンロールなど、バラエティに富んでいるが、全体的にはカントリー寄りの印象を受ける。この10年くらいでこの手の音楽にはかなりやられているが、このアルバムでさらにいっそう深みにはまり込んでいきそうだ。「Trampled Rose」や「Nothin'」の怪しげな響きがたまらない。アルバムの最後をトラディショナルの「Your Long Journey」で二人の美しいハーモニーとともに締めているなんて心憎い。それにしても1曲目の「Rich Woman」が1955年に作られた曲だと知ったときは驚いた。実に現代的な感じがしたものだから。音楽はどんどん新しいものへと進化を遂げているように見えて、実のところちょっと先に進んだと思ったらまた過去へと回帰したりして、必ずしも未来に進んでばかりではないということなのだろう。
 ちなみにこのアルバムはT.ボーン・バーネット(T Bone Burnett)のプロデュース作品ということでも話題に上っているようだが、私はプロデュースとかエンジニアにはとても疎いので、よくわからなくてすいません。

『100円のコーラを1000円で売る方法』永井 孝尚

 KADOKAWA/中経出版。
  営業バリバリだった勝ち気な宮前久美が、自ら進んで商品開発部に乗り込み、上司である与田誠のもとでマーケティングの基礎を身につけていくという小説仕立てのビジネス書。
 宮前の企画や考え方はわりと一般の人に近いんじゃないかと思う。でもそれはマーケティングで失敗してしまう典型でもあって、ではどうすればいいのかが中学生くらいにでも十分に理解できるようにわかりやすく物語が進んでいく。実際のところタイトルの『100円のコーラを1000円で売る方法』というのはほんのちょっと軽く触れられている程度で、本書の目的はその方法を教えることにあるのではなく、あくまでマーケティングの理論を一般の人に気軽に親しんでもらうことにある。お客様の言いなりの商品は売れないだとか、値引きの作法、省エネルックは失敗したのにクールビズは成功した理由など、興味深い内容が盛り込まれている。
 この本に書かれていることはどの本にも書かれていることで新味がないなんて批判は、論点がずれている。この本はマーケティング理論を追究するものではなく、どちらかと言えば一般向けの啓蒙に近い本なのだから。マーケティングのとっかかりとして、とても入り込みやすい内容だと思う。個人的にすっきりしない読後感になったのは、この本には「2」「3」と続きがあるということを最後の方になって突然知らされたからである。

2018年9月16日日曜日

『Screws』Nils Frahn

 2012年。
 ちょっとこもったようなピアノの音。弱音ペダルを押しながら弾いているかのような。静かで、内省的な「あなた」から「わたし」へとつながる9曲のピアノ・ピース。「You」「Do」「Re」「Mi」「Fa」「Sol」「La」「Si」「Me」。
 ニルス・フラームは、このとき左手の親指を怪我していたのだという。そのため残りの9本の指でこのアルバムを作った。そのときの精神状態がこの修行僧のような音楽を作り出したのだろうか。失恋の悲しみに寄り添ってくれているかのような、ちょっと切ないピアノ小曲集。

2018年9月15日土曜日

『コロンビア・ブエナビスタ(2018)』横井珈琲

 Colombia Buenavista。コロンビアのブエナビスタ農園のコーヒー。
 桃を思わせる濃厚でどしっとした舌触り。それに、まだ熟し切っていない青リンゴの酸味が強く含まれる感じ。全体としてはやわらかい雰囲気を持っているものの、強めの酸味に目が覚める。深煎りの苦めのコーヒーが好きな人には薦めないけれど、フルーティーな酸味が好きな人はちょっと試してみてもいいかもしれない。高級感がある。

工房 横井珈琲

2018年9月3日月曜日

『水彩画 水を操る15のテクニック』石垣 渉

 日貿出版社。
 表紙に「ワンランク上を目指す」と書いてあるけれど、内容はそんなに特殊なものではなく、水張りの仕方とかマスキングの使い方とか基本的なことも多く取り上げている。だから初心者でもこの本は十分理解できるし、役に立つと思う。
 彼はとてもきれいな水彩画を描く画家で、この本の白眉も「水を操る」というところにある。透明水彩はコントロールできない偶然性が楽しいところでもあるわけだけれど、著者は偶然性には身を任せない。あくまでも水彩絵の具を思った通りに仕上げることにこだわり、本書ではそのための方法を丁寧に教えてくれる。そして中でも一番書きたかったことは、おそらく画面全体をむらなくきれいに塗るにはどうすればいいかということなんだと思う。そのための方法論は、薄く塗っては乾かしを10回以上繰り返すという単純なものだ。だから誰にでも真似できる。あなたにもきれいな水彩は描ける。
 とはいえ、10回以上も繰り返し塗り重ねるなんて考えたこともなかった。私の場合、塗り重ねるのは多くてもせいぜい3、4回。10回なんて気が遠くなる。せっかちな私には向かない技法なのかもしれないと、やってみる前からちょっとやる気を失っている。でも1回くらいは試してみようか。もしかしたら新しい世界が開けるかもしれない。

2018年9月1日土曜日

『世界の秘密』高井 息吹

 2017年。
 彼女のセカンドアルバムにあたる本作でも、ファーストアルバムと同じように、ピアノと特徴のある歌声によって独得の世界観を醸し出している。ささやく声と静かなピアノがまるでモノローグのような『うつくしい世界』で始まるこのアルバムは、2曲目以降バックバンド「眠る星座」を交えて急展開を見せる。ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』のフレーズを大胆に取り入れた『Carnival』で満開に花開き、そのあとはもう彼女の独壇場だ。時に激しく、時に穏やかに、自在に音を操っていく。不協和音で不器用な『marionette』を表現したあとには正統派ポップの『LaLaLa-i』。かと思えばその次にはピアノによる物静かなインプロヴィゼーション『-水面-』で心を落ち着かせ、そのまま気づいたら次の曲『水中』に移っている。「ポカリスエットゼリー」CM曲として書き下ろした『青い夢』を壮大に奏で、最後に『今日の秘密』でしめやかに幕を閉じる。
 歌詞を前面に押し出すのではなく、あくまで音楽として大きな作品にまとめようとしているという印象を受ける。高井息吹の多面的ながらも一貫性のある音楽を知るには、このアルバム全体を通して聴くことが一番の近道なのだと思う。

2018年8月26日日曜日

『わらわらと羊~眠れぬ夜に』

 他に真面目な作品を描いていたのですが、飽きてきたのでいたずら描きをば。
 これはちゃんとした作品に仕上げる予定はありません。ただただ羊をいっぱい描いてみたかっただけです。下描きなしのボールペン一発描きで、色もきちんと塗る気がまるでなかったので、雑すぎですが。

『秋桜ブレンド(2018)』丸美珈琲店

 コスモスブレンド。この時期限定のブレンドコーヒー。
 とてもやわらかい舌触りのコーヒー。ほんのちょっとだけアプリコットを思わせる酸味を感じるけれど、苦味もほとんどなく飲みやすい。味のバランスがよく、ほっこりした感じでおいしい。「コスモス」の言葉から来るイメージは個人的には酸味がきつい印象だけど、丸美珈琲店にとってはやわらかくて家族的なイメージなんだな、と思った。

丸美珈琲店

『転調テクニック50』梅垣 ルナ

 リットーミュージック。副題「イマジネーションが広がる実践的コード進行集」。
 作曲を始めたばかりだと、どうしても転調は敷居が高く、実際にどうやっていけばいいのかわからないことが多い。この本ではそんな転調ネタを50例示し、どのようなコード進行でつないでいったらいいのかを解説している。
 楽譜のキーはすべてCあるいはAm(つまりシャープ、フラットなし)で始まっているので、比較しやすい。そしてそれからいろいろなキーに転調していっているのだけれど、そのときにどんなコードをどういった理論でつないでいっているのかわかるようになっている。例えばツーファイブを利用するとか半音進行を利用するとか。転調の時のコードのつなぎ方って意外と単純な考え方なんだな、ということがわかったりする。
 付属CDにはそれらの音源とmidiデータが収録されているので、転調のイメージがわかりやすい。転調の引き出しを増やすにはいい本なんじゃないかな、と思う。

2018年8月23日木曜日

『知ることより考えること』池田 晶子

 新潮社。
 著者は難しい言葉でなく日常的な言葉で哲学を語る「哲学エッセイ」を確立したなどと言われている。本書では、知ることを否定しているわけではないけれど、本当のことを知るためには考えなくちゃいけない。今はただの知識あるいは情報の取得ばかり一生懸命になって、そのあとの考えるということがおろそかになっている、というのが彼女の基本スタイルである。
 ただ、どうなんだろう。確かに彼女はよく考えている。知識の収集というよりも前に考えることを大事にしている。人生で大事なことは何か。そもそも人生とは何か。そして彼女なりの答えを持っている。時事ネタに関しても多くの考えを述べているが、痛快なまでに意見あるいは判断を下している(切り捨てていると言っていいかもしれない)。読む人によっては目から鱗で気分もいいだろう。
 しかしながら、彼女には社会性というものが欠落しているような気がする。自分をとおした人間のあり方についてはよく考えられているが、社会の仕組みや人間が外部世界とどのようにつながっているのかについて、あまりに無頓着な印象を受ける。上で時事ネタについても多く語っていると述べたが、肝心のその時事ネタに関する知識がまるでないので、とんちんかんな独りよがりのつぶやきに終わっているものも多いように感じた。
 共感できたり、腑に落ちたりする部分は確かにある。だが、そういった部分とそうでない部分の落差が激しく、この本を読むときにはきちんと自分の頭で考えることがとても重要になってくる。実に逆説的な話だが。

2018年8月18日土曜日

『Turn Up The Quiet』Diana Krall

 2017年。ダイアナ・クラール。
 往年のジャズスタンダードを手がけた作品。ダイアナはヴォーカルとピアノ。トミー・リピューマ(Tommy LiPuma)最後のプロデュース作品だという。
 このアルバムについては発売前から買うかどうかずっと悩んでいたのだけれど、札幌にある『カフェ+ギャラリー・オマージュ』というレストランで食事中ずっと流れていて、それがなかなかよかったのでやっと購入に踏み切った。
 最初から、「Like Someone In Love」「Isn't It Romantic」「L-O-V-E」と、安定した演奏と歌唱でどんどん続けていく。ジャズヴォーカル作品としてはある意味王道的なアプローチなのだと思う。安心して聴けるというか、これはこれで完成してしまっているというか。ただ逆に、そのせいでちょっと物足りなさを感じさせてしまっているところがあるようには感じる。演奏や歌、そして曲についてはまったく言うことはないのだけれど、もうひとつ何かが加わってもいいんじゃないかという。完成しちゃっているから加えるものは思いつかないし、贅沢な要求なのかもしれないけれど。

2018年8月15日水曜日

『もうひとつの空―日記と素描』有元 利夫

 新潮社。
 有元利夫は戦後まもなく生まれた日本の画家である。ロマネスク風のフレスコ画のような絵や版画を残し、38歳という若さでこの世を去った。本書はその有元による晩年10年弱の日記や、美術誌などに取り上げられた文章、そして彼の描いた素描などを掲載している。
 素描はすごくうまいというものではないのだけれど、彼が完成させた絵画と同じように、素朴で不思議な雰囲気を漂わせている。文章はとてもしっかりとしていて、芸術に対する真摯な態度が伝わってくる。苦しみながらも自分の描くべき絵のあり方を模索していっている様子がうかがえる。バロック音楽を愛し自らリコーダーも奏でていた彼が、絵の他に大事にしていた音楽と向き合う姿も垣間見ることができる。
 芸術家とは、画家とはこういう人のことをいうのだな、と強く思った。そういえば、「ゴッホの手紙」という本を読んだときも同じような感覚を覚えた。そして逆に私自身を振り返ってみると、絶対に芸術家ではないと断言できる。絵そのものに対する向き合い方がまるで違う。この本を読んでいるときにそのことに気づき、大きなショックを受けることになったが、本物の芸術家の言葉にこうして耳を傾ける時間がとれたことは大きな幸運でもあったのだなと思う。今度彼の展覧会が催される機会にうまく巡り会えたら、必ず足を運ぼうと思っている。

2018年8月14日火曜日

『暴政』ティモシー・スナイダー

 慶應義塾大学出版会。池田年穂 訳。副題「20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン」。
 ヨーロッパでは、イギリスの君主制からの独立宣言(1776)後、3回の大きな民主的な局面を迎えたものの、そのときに建設された多くの民主制は破綻への道を歩んでしまったと著者は指摘する。その3度の局面とは第一次世界大戦後(1918)、第二次世界大戦後(1945)、共産主義終焉後(1989)のことである。著者は歴史は繰り返さないとするものの、歴史から学ぶことはできるとし、本書の中で20のレッスンを行っている。
 その一番初めのレッスンが「忖度による服従はするな」というタイトルなのは、もちろん日本のことを念頭に置いたものではない。しかしこれを単なる偶然と笑って済ませられるほど、軽い話ではない。ナチスドイツが政権を取って全体主義に向かっていったとき、おおむね民主主義に則った形でことは進んだ。その一端を担っていたのは、ごくふつうの国民だったのだという。
 本書で書かれているレッスンのひとつひとつは、それだけで暴政につながることはないかもしれない。しかしそれらが組み合わさったとき、暴政は始まる。「組織や制度を守れ」「自分の言葉を大切にしよう」「自分で調べよ」「危険な言葉には耳をそばだてよ」。どれも当たり前のことに感じるかもしれない。でもその当たり前のことが当たり前でなくなっているからこそ、著者はこうして警鐘を鳴らす。本書はアメリカ国民に向けて書かれたもので、暴政という言葉を明らかに現大統領による政治手法と結びつけている。そしてロシアやトルコの指導者とも。
 おそろしいのは、これらのレッスンが今の日本人にとっても他人事とは言えない内容になっている点だ。歴史に流されてはいけない。歴史に学ばなくてはならないのだ。

2018年8月11日土曜日

『漁の合間(仮題)』

 「北の海」厚田アクアレール第4回水彩画展(ホームページ)で入選しました。もう展示は終わってしまいましたが、北海道石狩市の厚田総合センターで、7月下旬から8月上旬にかけて展示されていました(ただし出品者名も作品名も違うので、検索しても出てきません)。
 「北の海」がテーマなのですが、海に面していない町に住む私は簡単にはスケッチ旅行に出かけられず、アルバムに保管してあった何十年も昔のすすけた写真をベースにしました。山の形も船や家の形や数も、海の色さえも写真とは違うのですが、私が見た漁港の雰囲気はこんなんだったよな、と想像に任せて描きました。
 大部門で応募したのですが、この大きさの絵を透明水彩で描くのは大変でした。アクリルとか油彩の方が大きな絵は描きやすいです。

2018年8月8日水曜日

『精読 アレント『全体主義の起源』』牧野 雅彦

 講談社選書メチエ。
 ハンナ・アレントの『全体主義の起源』は、1951年に初版が出された全3部から成る大書である。第1部から順番に、「反ユダヤ主義」「帝国主義」「全体主義」という構成になっている。本当は2017年に出された新版の『全体主義の起原1~3』(「きげん」の漢字が異なる)3冊を読みたかったのだけれど、あまりの値段の高さに手が出ず、まずは本書を読んでみることにした(『全体主義の起原1~3』は新版と言いつつ訳は古いままだとamazonのレビューには書いてある)。
 アレントによるドイツ語版及び英語版からの引用をしつつ、牧野によって解説が加えられている。内容的にはかなり込み入っていて難しい。彼女が一番考えたかったのは全体主義についてであることは明らかなのだけれど、彼女の言う「全体主義」と、我々が義務教育等で習ってきた「全体主義」のニュアンスがかなり異なっているように感じた。全体主義はファシズムでもなければ共産主義でもなく、さらに言えば反ユダヤ主義とも帝国主義とも違う。本書で全体主義国家としているのはヒトラーのナチス・ドイツであり、スターリンのソビエト・ロシアであって 、ムッソリーニのイタリアではない。法律はあるのにそれとは別の超法規的な存在があり、全体主義には階層も権威もなく、ただ大衆(マス)の存在がある。プロパガンダに導かれる運動こそがその根本にあり、それは「体制」ですらない。全体主義を覆う構造は何層にもわたって巧妙に仕組まれたガラス細工のようなものなのではないか、とそんなことは本書では書かれてはいないのだけれど、そんな印象を持つ。
 私は彼女の思考をうまく言葉に訳せないのだけれど、彼女にとってもそれはまだ体系的に理論立てできずにいたままだったのではないか。それがこの『全体主義の起源』という本の難しさにもつながっているように思う。牧野による本書を読むと、なんとなくはその全体像がおぼろげながらもつかめた気にはなるのだけれど、それを一言で要約できるほど私は理解し切れていない。
 ただ、全体主義の恐ろしさは、とてつもなく強く感じた。ヒトラーやスターリンが、人類の歴史のほんの一部の期間だけとはいえ、それを成し遂げてしまったということに驚きを感じる。ある意味において2人は天才(「悪の」とつけてもいいかもしれない)だったのだろう。数多くの偶然も重なって全体主義国家は成立してしまったのだろうが、その「種(たね)」は、現代においてもいくらでもその辺に転がっている。また不幸な偶然が重ならないようにするための知恵は、まず「全体主義」とは何かについて知ることから始まるのだと思う。

2018年8月5日日曜日

『おいしいうた』福原希己江

 2011年。
 私は知らなかったし観てもいなかったのだけれど、『深夜食堂』というドラマや映画があったのですね。そこで音楽を担当していたのがこの福原希己江というシンガーソングライターなのだという。このアルバムは、そのうちのTBSドラマ『深夜食堂2』で使われた曲が入っている、彼女にとってのファーストアルバムだということらしい。クラシックギターの音色と彼女の声だけのシンプルな構成だ。録音場所が撮影現場と自宅の台所というのがおもしろい。「できること」とか「なかないで」とかふつうの曲もあるんだけど、「からあげ」「あさりの酒蒸し」「青椒肉絲(チンジャオロース)」「肉じゃが」「たいやき」みたいな食べ物の曲も多くて、そっちは全然ふつうの歌詞じゃないから逆に気になってしょうがない。まあ、食堂がテーマのドラマの挿入歌だからそういう曲が多くなってしまうのは必然なのだろうけれど。
 ギターの弾き語りって、聴いていてなんだかほっとする。自分が家で歌うときはどうしてもそういう組み合わせになってしまうから、親しみを感じるのかもしれない。福原はずっとギターを片手に音楽を奏でてきたみたいだけど、2017年からリュートに持ち替えたらしい。どんな音楽に進化したのだろう。ちょっと気になる。

2018年8月4日土曜日

『Portrait of MOONRAY』

 アメリカのテキサス州オースティンを主な拠点とするデュオのバンド「MOONRAY」からポートレートの作製を依頼されて描いたものです。MOONRAYのホームページのPHOTOSにもしばらくの間、アップされているようです。
 7、80年代のポップスを感じさせる、懐かしい雰囲気の聴きやすいサウンドを届けてくれます。今年中にファーストアルバムがリリースされる予定らしいので、興味のある方は是非。

2018年7月27日金曜日

『If All the Young Ladies』Shannon Quinn

 2015年。
 シャノン・クインのセカンドアルバム。彼女はカナダのフォークミュージシャンで、主にケルティック系のフォークを歌っている。ヴォーカルのほかフィドルも担当していて、味のある音色を響かせる。本作にはフィドルメインのインストゥルメンタルも数曲入っていて、その音も存分に楽しませてくれる。ほんのちょっぴりブルーグラスっぽい雰囲気を持つものもあるかな。彼女のちょっとハスキーがかった歌声も、自然で親しみやすい雰囲気があっていい。なんだか懐かしい感じがしてほっとする。ギターの音もなかなかいい味を醸しているんだけど、これを弾いているのは他のギタリストだ。オリジナル曲はあんまりない感じ。でもアルバム全体は統一感があって、とても聴きやすい。彼女のアルバムは初めて手にしたけれど、気に入った。

2018年7月26日木曜日

『グッズ製作ガイドBOOK』グラフィック社編集部

 グラフィック社。
 販促グッズとかって、クリアファイルとか手帳とか缶バッジとかはすぐに思いつくけれど、他にどんなものがあるのか、一般の人には想像がつかないものだ。私も当然その部類で、この本を開くまで、こんなにもたくさんの選択肢があるなんて思いもよらなかった。
 ノート、定規、クリップ、マスキングテープ、紙コップ、ステンレスボトル、絆創膏、ギターのピック、トイレットペーパー、どら焼き、金太郎飴、靴下、タイツ…。すごい種類のものを作れるんだと感動した。そしてそれぞれについて、納期、単価、最小ロットなども載せてある。もちろん連絡先も。
 最小ロットが1000個とか個人には難しいものもあるけれど、マグカップみたいに1個から作れるものもあって、ちょっと試しに作ってみたくなってしまう。それぞれのグッズについて1社しか紹介されていないけれど、どんなものがあるのかこの本で調べて、ネットでいろいろな会社を比較検討してみればよいのだと思う。イメージがふくらんで、とてもいい本を買ったと思った。

2018年7月25日水曜日

『評価の経済学』デビッド・ウォーラー、ルパート・ヤンガー

 日経BP社。月沢李歌子 訳。
 企業でも個人でも、はたまた国家でさえも、他人からの評価に大きな影響を受けている。誰もが「評価ゲーム」に参加しているからだ、と著者は言う。ここでは「能力」に対するものと「性質」に対するものを分けて考えているが、全体として見た場合、それらがどのような評価を形づくっているのかについて論じている。
 著者がこの評価を決定している要素として挙げているのが、「行動」「ネットワーク」「ナラティブ(物語)」の3つである。この3つを軸として、古代ローマから現代に至るまでの多くの人物、企業、国家などを例にとり、「評価ゲーム」の内情をわかりやすく展開してみせている。
 そうやって評価についていろいろと議論しているのであるが、その評価を完全に管理することはできないのだと著者は言う。他人が自分をどう理解するかを操作できると考えることは危険なことだとさえ言う。では我々は指をくわえて何もできないのか。そうではない。他人の自分に対する理解に影響を及ぼすよう戦略を立てることはできる。そしてそこで大事になってくるのが、上で述べた3つの要素なのだと著者は結論づける。
 本書で取り上げられているのは有名人や著名人、大企業ばかりであるけれど、これを自分のこととして置き換えることはもちろんできる。評価ゲームに強い人間は明らかにいるのである。せっかく本書ではその秘密を懇切丁寧に教えてくれているのだから、これを実生活に生かさない手はない。当然、そんなに簡単なことではないけれど。
 なお、蛇足ではあるが、これのどこが経済学なのかはよくわからなかった。

2018年7月23日月曜日

『ちひろメモリアル: 生誕100年 (別冊太陽 日本のこころ 263)』

 平凡社。
 別冊太陽では2007年にもいわさきちひろ特集を組んでいるけれど、今回は彼女の生誕100周年を記念したものとなっている。彼女の愛らしい作品がたくさん掲載されていて、しかも図版が大きいのがとてもうれしい。絵本のこと、『子どものしあわせ』の表紙連載のこと、また、彼女が生まれてから亡くなるまでの写真も多く取り上げられている。家族のこと、家のこと、そして人となり。いわさきちひろという童画家がどういう思想を持って、どのように絵に取り組んできたのか、それをここまであからさまに書いてあるのを読むと、なんだか覗いてはいけない秘密の扉を開いてしまったかのように、逆にこちらがドキドキしてくる。
 私が一番好きな画家かもしれない。小学生の頃から彼女の絵を見て育った。先日ある会合でご一緒させていただいた方に「お好きな画家は?」と問われて、ついフェルメールやシャルダンを挙げてしまったのだけれど、そのときに「いわさきちひろです」ととっさに答えられなかったのを後悔している。

2018年7月16日月曜日

『友への手紙 森田童子自選集』森田童子

 1981年。2016年リイシュー盤。
 16曲入りの森田童子自身の選曲によるベスト盤。当初カセットテープだけの発売だったらしい。透きとおるような絹のような高音の歌声が奏でる悲しい旋律。いや、悲しいのはメロディだけじゃないんですね。歌詞もまた辛い。森田童子を知っている人にとってはそんなのは当たり前なのかもしれないけれど、「ぼくたちの失敗」くらいしか馴染みのない私のような者には結構きつい。曲の合間にはさまれるモノローグもまたそれに輪をかけている。声が美しすぎて繊細すぎて、その声が訴える内容がまたそれにマッチしすぎていて。
 このアルバムを聴く前にはあいみょんをずっと聴き続けていたというのも悪かったのかもしれない。あいみょんに精神をえぐられて、そのあと森田童子を繰り返しかけてさらに精神の内部を犯されてしまったのカナ。ファンだったら一聴の価値はあるのだと思う。