2018年9月30日日曜日

『ブルンディ・ムバンガ/ウォッシュト(2018)』横井珈琲

 Burundi Mpanga Washed。ブルンディのムバンガ・ウォッシングステーションのコーヒー。ブルンディの農家は小規模なものが多く、ウォッシングステーションと呼ばれる生産処理場に持ち込んで、コーヒー豆を処理しているのだという。だからこの豆も、ムバンガ地区の豆ではあろうけれど、単一農園のものではない。以前このブログではナチュラルプロセスによるものを紹介したが(記事)、この豆はフーリーウォッシュトという処理方法によるもの。
 中煎りで、あまり強い個性はない。すっきりとさわやかなのどごしで、飲みやすい。グレープフルーツっぽい感じがしないでもない。横井珈琲のホームページでは、ジャスミン、ラズベリー、パッションフルーツの風味と書いてあるけれど、私の舌ではあまりそのような印象は受けなかった。くせが少ないので、わりと万人向けかもしれない。

工房 横井珈琲

2018年9月29日土曜日

『「あなた」という商品を高く売る方法』永井 孝尚

 NHK出版新書。副題「キャリア戦略をマーケティングから考える」。
 芸能とかフリーランス向けに書かれた本かと思って手に取ったのだが、 そうではなかった。副題にあるとおり、キャリア戦略をどう考えて、自分の力を発揮していくとよいかマーケティング理論を元に解説しているのが本書である。
 みんなと同じことをやっていても「自分」の評価は上がらないということが基本としてはある。自分のできることで他人が簡単に真似できなくて、かつ会社や社会が求めるものを、どうやったら身につけることができるのかを指南している。ここには著者の経験や会社や自治体の観光広報など、具体例がたくさん出てくるので、わかりやすい。成功している人たちは結局は似たような状況を自分自身につくりだして成功しているのだろうけれど、それを紆余曲折して手当たり次第に「当たり」を探すのではなくて、戦略的に能率よくやるにはどうすればよいか。それがこの本には書かれている。
 とはいえ本書の内容は一般化されているので、それを個々の自分自身に置き換えたときどう行動すればよいかは、自分で考えなければならないのであるが。

2018年9月26日水曜日

『冬の大地の水族館』詩月あき

 オホーツク海沿いにあるとある水族館で友人が撮った写真の子供たちがとてもかわいらしかったので、イラストにさせていただきました。
 その写真に写っていた魚はここには描いていないので、この絵はどこの海かと言われると困るのですが、北の大地、具体的には富良野・美瑛辺りをイメージして描きました。富良野は北海道のへそ(緯度経度が北海道のちょうど真ん中にあるので)と言われるところで、海なんかないので、これは海ではなくて空だよ、と答えておきましょうか。

2018年9月22日土曜日

『Raising Sand』Robert Plant & Alison Krauss

 2007年。
 私はレッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)の曲、そしてそのヴォーカルの声が好きだったが、実はソロになってからのロバート・プラントの歌を聴くのは、これが初めてだった。彼の時代のハイトーン・ヴォイスは影を潜めて、ごく自然体で無理なく歌っている。何も知らずにこのアルバムを聴いたら、9曲目の「Fortune Teller」まで彼の声だと気づかなかったに違いない(7曲目でセルフカヴァー「Please Read the Letter」が収録されているのにもかかわらず)。そしてアリソン・クラウス。フィドル弾きのブルーグラスの大御所らしい。高音のきれいな声がロバート・プラントのいい具合に力の抜けた声にぴったりとはまって、素敵なハーモニーを奏でている。「Stick With Me Baby」なんて特にそう。
 曲はカヴァーが多い。いかにもアメリカっぽいカントリーやフォーク、ロックンロールなど、バラエティに富んでいるが、全体的にはカントリー寄りの印象を受ける。この10年くらいでこの手の音楽にはかなりやられているが、このアルバムでさらにいっそう深みにはまり込んでいきそうだ。「Trampled Rose」や「Nothin'」の怪しげな響きがたまらない。アルバムの最後をトラディショナルの「Your Long Journey」で二人の美しいハーモニーとともに締めているなんて心憎い。それにしても1曲目の「Rich Woman」が1955年に作られた曲だと知ったときは驚いた。実に現代的な感じがしたものだから。音楽はどんどん新しいものへと進化を遂げているように見えて、実のところちょっと先に進んだと思ったらまた過去へと回帰したりして、必ずしも未来に進んでばかりではないということなのだろう。
 ちなみにこのアルバムはT.ボーン・バーネット(T Bone Burnett)のプロデュース作品ということでも話題に上っているようだが、私はプロデュースとかエンジニアにはとても疎いので、よくわからなくてすいません。

『100円のコーラを1000円で売る方法』永井 孝尚

 KADOKAWA/中経出版。
  営業バリバリだった勝ち気な宮前久美が、自ら進んで商品開発部に乗り込み、上司である与田誠のもとでマーケティングの基礎を身につけていくという小説仕立てのビジネス書。
 宮前の企画や考え方はわりと一般の人に近いんじゃないかと思う。でもそれはマーケティングで失敗してしまう典型でもあって、ではどうすればいいのかが中学生くらいにでも十分に理解できるようにわかりやすく物語が進んでいく。実際のところタイトルの『100円のコーラを1000円で売る方法』というのはほんのちょっと軽く触れられている程度で、本書の目的はその方法を教えることにあるのではなく、あくまでマーケティングの理論を一般の人に気軽に親しんでもらうことにある。お客様の言いなりの商品は売れないだとか、値引きの作法、省エネルックは失敗したのにクールビズは成功した理由など、興味深い内容が盛り込まれている。
 この本に書かれていることはどの本にも書かれていることで新味がないなんて批判は、論点がずれている。この本はマーケティング理論を追究するものではなく、どちらかと言えば一般向けの啓蒙に近い本なのだから。マーケティングのとっかかりとして、とても入り込みやすい内容だと思う。個人的にすっきりしない読後感になったのは、この本には「2」「3」と続きがあるということを最後の方になって突然知らされたからである。

2018年9月16日日曜日

『Screws』Nils Frahn

 2012年。
 ちょっとこもったようなピアノの音。弱音ペダルを押しながら弾いているかのような。静かで、内省的な「あなた」から「わたし」へとつながる9曲のピアノ・ピース。「You」「Do」「Re」「Mi」「Fa」「Sol」「La」「Si」「Me」。
 ニルス・フラームは、このとき左手の親指を怪我していたのだという。そのため残りの9本の指でこのアルバムを作った。そのときの精神状態がこの修行僧のような音楽を作り出したのだろうか。失恋の悲しみに寄り添ってくれているかのような、ちょっと切ないピアノ小曲集。

2018年9月15日土曜日

『コロンビア・ブエナビスタ(2018)』横井珈琲

 Colombia Buenavista。コロンビアのブエナビスタ農園のコーヒー。
 桃を思わせる濃厚でどしっとした舌触り。それに、まだ熟し切っていない青リンゴの酸味が強く含まれる感じ。全体としてはやわらかい雰囲気を持っているものの、強めの酸味に目が覚める。深煎りの苦めのコーヒーが好きな人には薦めないけれど、フルーティーな酸味が好きな人はちょっと試してみてもいいかもしれない。高級感がある。

工房 横井珈琲

2018年9月3日月曜日

『水彩画 水を操る15のテクニック』石垣 渉

 日貿出版社。
 表紙に「ワンランク上を目指す」と書いてあるけれど、内容はそんなに特殊なものではなく、水張りの仕方とかマスキングの使い方とか基本的なことも多く取り上げている。だから初心者でもこの本は十分理解できるし、役に立つと思う。
 彼はとてもきれいな水彩画を描く画家で、この本の白眉も「水を操る」というところにある。透明水彩はコントロールできない偶然性が楽しいところでもあるわけだけれど、著者は偶然性には身を任せない。あくまでも水彩絵の具を思った通りに仕上げることにこだわり、本書ではそのための方法を丁寧に教えてくれる。そして中でも一番書きたかったことは、おそらく画面全体をむらなくきれいに塗るにはどうすればいいかということなんだと思う。そのための方法論は、薄く塗っては乾かしを10回以上繰り返すという単純なものだ。だから誰にでも真似できる。あなたにもきれいな水彩は描ける。
 とはいえ、10回以上も繰り返し塗り重ねるなんて考えたこともなかった。私の場合、塗り重ねるのは多くてもせいぜい3、4回。10回なんて気が遠くなる。せっかちな私には向かない技法なのかもしれないと、やってみる前からちょっとやる気を失っている。でも1回くらいは試してみようか。もしかしたら新しい世界が開けるかもしれない。

2018年9月1日土曜日

『世界の秘密』高井 息吹

 2017年。
 彼女のセカンドアルバムにあたる本作でも、ファーストアルバムと同じように、ピアノと特徴のある歌声によって独得の世界観を醸し出している。ささやく声と静かなピアノがまるでモノローグのような『うつくしい世界』で始まるこのアルバムは、2曲目以降バックバンド「眠る星座」を交えて急展開を見せる。ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』のフレーズを大胆に取り入れた『Carnival』で満開に花開き、そのあとはもう彼女の独壇場だ。時に激しく、時に穏やかに、自在に音を操っていく。不協和音で不器用な『marionette』を表現したあとには正統派ポップの『LaLaLa-i』。かと思えばその次にはピアノによる物静かなインプロヴィゼーション『-水面-』で心を落ち着かせ、そのまま気づいたら次の曲『水中』に移っている。「ポカリスエットゼリー」CM曲として書き下ろした『青い夢』を壮大に奏で、最後に『今日の秘密』でしめやかに幕を閉じる。
 歌詞を前面に押し出すのではなく、あくまで音楽として大きな作品にまとめようとしているという印象を受ける。高井息吹の多面的ながらも一貫性のある音楽を知るには、このアルバム全体を通して聴くことが一番の近道なのだと思う。