NUDGE 実践 行動経済学 完全版 – リチャード・セイラー (著), キャス・サンスティーン (著), 遠藤 真美 (翻訳)

 日経BPマーケティング

著者らは2008年(邦訳は2009年)に『実践 行動経済学』という本を上梓しており、それを踏まえて「完全版」と銘打っている。

NUDGE(「ナッジ」)は、ある目的を達成するために肘でつついてひと押しする、みたいな意味。例えば、たくさんの選択肢がある商品を売るとき、おススメとしてデフォルトの選択がされた状態でお客さんに提示しておくと、買いやすくなるみたいな。

逆にある目的を達成するために邪魔になる障壁、書類の提出やら手続きやらもろもろのことを「スラッジ」(sludge、汚泥と訳すかな、ふつうは)とよんでたりする。

 この本のどこにも書いていないけど、UI/UX(ユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンス)みたいな感じかな、と勝手に思った。

本書は、「ナッジ」の内容や必要性をひととおり説明した後、具体例をたくさん挙げている。

テレビショッピング、個人情報開示、老後資金、住宅ローン、クレジットカード、保険、臓器提供、地球温暖化等々

勘のいいひとはすぐに気づくと思うけど、「ナッジ」という手法は悪用できてしまうんですよね。

でも悪用するための肘押しはナッジとはよばないで、あくまで社会をよくするための肘押しのことを「ナッジ」と著者はよんでいる。 

ここがとっても難しいところだと思うんだけど、社会をよくする、っていうのには価値判断が絡んでくるんできますよね。

それは著者もよくわかっていて、住宅ローンの話とかだと借りる側が得をするための方法をしっかり提示してるのに対して、臓器提供とかの話題だと、こんな考え方もあるけど皆さんどう思います?みたいに例を挙げるだけで結論は出さないで終わっていたりする。

「ナッジ」に対しては個人の自由を奪うだとかいろいろな批判や反対意見もあるみたいだけど、人間である以上こういうのから逃れられないんだから、うまく使っていかなきゃな、と思った。

いい例えじゃないかもしれないけど、デザインやアートの世界で、人間は錯視するものだとの前提があったうえであらかじめ錯視補正をしておくみたいにさ(ゴシック体って同じ太さに見えるけど、実は同じ太さに見えるように補正してデザインしてるからそう見えるだけで、実際には太さは一定じゃない、とか)。

行動経済学っておもしろいです。

 

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