誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち スティーヴン ウィット (著), 関 美和 (翻訳)

 早川書房

本を読む前、実は内容について勘違いしていた。

レコードやCDといった音楽媒体の流通という手段が激減して、サブスクリプションという形態に変化していく歴史をたどるものだと思っていた。しかしそうではなかった。

否、ある意味そういう歴史の流れを書いたものではあるのだが、中身はそう単純なものではなかった。よく考えるとサブスクリプションは「タダ」ではない。サブスクリプションの前に、本当に音楽が「タダ」になっていた時代があったのだ。

私はなぜかその時代を素通りしていた。「タダ」で音楽を入手する手法自体は認識していたものの。どこかでそれは悪いことだという考えが私に制限をかけていたのかもしれない。ただ、そんなことは私の個人的経験であって、この本の内容とはほとんど関係がない。 

 

さて、本の内容。

mp3という音楽の圧縮技術をご存じだろうか。失礼、愚問ですね。今はふつうに音楽データとして流通していますね。CDの持つデータよりも圧倒的に少ないデータ量で、ほとんど音質的には変わらない(属人的、属オーディオ環境によってはかなり変わるが)という特徴のあるデータ形式です。

本書はこのmp3の発明、規格競争、世間への受けいられ方について、まずは詳しく書いてある。

一方、当時(1990年代中盤以降から2000年代終わりころ)の音楽シーン、特にプロデューサーによるアーティストの発掘、そして流通の詳細。

さらに他方ではmp3技術の一般化による海賊版流通の歴史と警察やFBI、司法との攻防。

これら3者のダイナミックな動きが絶妙に絡み合いながら、さながらよくできた推理小説のような趣で物語を紡いでいく。

そして驚きなのは、これらがすべてノンフィクションだということだ。

あえてこれ以上本書の内容には立ち入らない。

 

読後にはある種のむなしさを感じた。

これらの音楽流通の劇的な変化によって、いったい誰が得したんだろう。

海賊版を流通させた中心人物は富豪になることもなくつつましい生活を送っている。

現在海賊版はほとんど出回らなくなり、サブスクリクションが主流になった。

音楽産業は衰退した。

アーティストが収入を得るためには今までのやり方ではうまくいかなくなった。

得をしたとすれば、これら膨大な音楽を「タダ」で入手することができた一般市民だろうか?


音楽が「消費」される時代に突入したんだな、という思いを強くした。


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