講談社現代新書
「戦前」という言葉は、政治の世界のみならず一般にもよくつかわれている。戦前回帰という熟語がその典型だろうか。
著者はそのような「戦前」の使い方に疑問を呈する。右派も左派も自分たちの都合のいいように「戦前」という言葉を用いているというのだ。
それに対して著者は、実際には戦前の我が国の在り方はどのようなものだったのか、ということを神話との関連で紐解いていく。
神話とはもちろん日本の神話のことで、イザナギ、イザナミ、アマテラスオオミカミ、神武天皇などなどを思い返していただけるとよいだろう。
大日本帝国つまり明治維新後の政府は、神話の世界を日本の国の礎に据えた。万世一系の天皇、八紘一宇などはその文脈で生まれたものだ。
内容を解説しているときりがないので、以下感想。
「教育勅語」、「国体の本義」など、本書にたくさん出てくる文献はきちんと原文が掲載されている。それがとてもいいなと思った。古事記と日本書紀で神話のストーリーが違うということや、神武天皇の即位日とされている建国記念の日(2月11日)は日にちは特定されているけれど年代は微妙な解釈に委ねられたままだということはまったく知らなかったので、勉強になった。
そうか、明治政府は明治維新によって幕府から政権を奪ったわけだから、幕府を否定して神の国としての日本の通史を作り上げる必要になったのだな、ということがよくわかった。
最近よく話題になっている男性天皇、男系天皇にこだわっている保守派の考え方の源についても理解できた。まさか明治になってから作り出された概念だということは知る由もなし。
著者のいう左派、右派による都合のよい「戦前」の捉え方というものが具体的に何を指すのかはよくわからなかったが、神話、天皇、現在の日本のシステムの根本にあるものについての基本的知識を得られるよい本だった。
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